29歳11ヶ月、この間5年付き合った婚約者と破談になった男が旅をした結果③
高知ではその後高知城の天守閣まで登ったり、市場を巡って芋天くったり本当に初めて来る場所の初めて触れる文化に感動していた。
本州とは違うところだ!本当に今俺は遠くにいるんだ!
さんざん歩き回ったあと、コインパーキングでぜんぜん違うところの番号の精算をちょっとたけぇなぁとか思いながら払っちゃって、本来の3倍の料金が出費になってしまった。
本当にこの男は気が緩み過ぎである。
その日は土佐佐賀の道の駅で寝起き。
うんめえお刺身を売店で買って完全に満喫していた。
土佐清水はジョン万次郎の家に行ったり、巨岩群を見たり、見たことない景色に興味津々だった。
翌日は香川で寝泊まりし、うどんくったり、愛媛のみかん買ったり、しまなみ海道ぬけちゃって、11月29日には広島の友達に会いに行った。
なんどもなんども胡散臭いが、この日、俺のこの最悪の1年がこの数日で一変した。
地元の同級生と広島で食事することになった。
俺は車だから酒をのまずに、彼はお好み焼きをつまみにビールを飲んでいた。
食事もそこそこに、風俗にいくかガールズバーに行くかなんて話になった。
からあまりそういうところには行かないんだけど、この旅はルール無用なんだってことを思い出して、風俗に行こう!となって街を練り歩いてたんだけど、やっぱふたりともちょっとアホだから、歩いてるうちに友達も酒が抜けてしまい。
やっぱり酒が飲みたいというので流行りのコンカフェに入ってみることにした。
コンカフェって凄いね!ガールズバーともちょっと違う、なんか不思議だった。店によるのかな?
ふーんふーんって思いながら実際はちょっと楽しくて話し込んじゃってた。
婚約破談になって日本一周してんだ〜って話を始めると、カウンターの奥にいた妙に生意気そうな女の子がまさにメスガキ顔でニヤニヤこちらを見ていた。
なんだかちょっとその子が気になってしまって、いろんなジャンルの会話で興味をひこうとすると、タイに行くという話で会話に入ってきた。
なんだかその子のタイに行きたい理由やプライベートの趣味の話までしてしまって、俺だけかもしれないが本当に意気投合したと思ったんだ。
めちゃめちゃディープな話だったし、、多分そう思う。嘘でもそれはそれで良い。
広島でこんな良い目にあってしまったもんだから、浮世の文化に目が行ってしまったので、
翌日には原爆ドームを見たあとにまっすぐ福岡に向かって博多中洲を見学に行った。(山口は道の駅で終わり、なにもなさすぎる!あっても山奥!帰路で寄ります!)
中洲は凄い!広島も結構都会でびっくりしたけど、博多もすごい都会だね!
立川くらいかと思ってたけど、めちゃめちゃ都会じゃん!知らなかったよ。なめてました。ごめんなさい。
いっちょスケベな店に入ってみっか〜〜と思ったけど、勇気がなくて入れなかったのでひたすらあの辺りを散歩してた。
出会橋?クリスマスイルミネーションが光る中、妙にしゃがれた良い歌声のエレカシが聞こえてきた。
路上ミュージシャンをしているおじさんだった。
ちょっとチューニングがずれてるんだけど、とにかくいい歌声ですごく沁みた。
次の日朝から一人でマリンワールドに行ったり、島の方へいってサザエ丼を食べて、あ〜想像通り!ってなったりした。
夕方に懐かしい知り合いの作家さんとお茶をしてお土産を渡し、長崎・佐賀へ向かって走り始めた。
12月1日、伊万里の道の駅で一夜を過ごしたがこの夜は特に寒かった。
ウインドブレーカーを足に巻きつけ、その足をリュックに突っ込み、パーカーを着てブランケットを体に巻き付けた後、その上にウインドブレーカーと厚手のコートをかけてもまだ寒いくらいで、車中泊のしんどさを再確認した。
佐賀め!寒すぎる!二度とくるか!とかマジで思った。
でも長崎いくと絶対佐賀通るよね。佐賀、俺結構好きな街になりました。
長崎では九十九島の高台へ行った後、佐世保バーガーの回転をまってかじりながら車でプラプラしてると、案内板まかせで国道沿いを走っていく。
女神大橋との案内があったので、どのくらい女神なのかが気になって見に行ったがそんなに女神じゃなかったな。なんとなく気分が乗らなくて渡らなかったし。
女神大橋を抜けてしばらく走ると、伊王島という島へと渡る大きな橋が見えてくる。
こっちは見るか!と進んでいくと、どうやらリゾート会社が再開発を大規模に行っているみたいで
施設内なのか公共の島なのか、そんな境目がちょっとわからなくなるような島だった。
岬の灯台を目指し、峠道を超えていく。
やっと峠を超えると少しひらけて小綺麗に整備された駐車場。
軍艦島がちょっと見える展望台、無料の双眼鏡も設置してある。
灯台の麓にはかつての灯台守の暮らしていた家や資料が展示されている施設がある。
ひとしきり見てまわって、日時は12月2日16時30分を少し過ぎていた。
なんだか広島でみた路上ミュージシャンが羨ましくて、でもちょっと恥ずかしいから
入れ替わり立ち替わりでくる観光客を気にしつつ、夕陽を眺めてギターを弾き始めた。
こんな場所
昔から曲を作るときは自宅の部屋の中で、元婚約者と一緒に暮らし始めてからはめっきり音楽活動ができなくなっていた。
この日は、なんだか憧れと感動とカッコつけがあいまって少し大胆になっていた。
大体2時間くらい滞在していたのだけれど、それだけ一つの場所にいるとなんだか色々見えてきた。
家族連れをガイドする爺さんが、毎回執拗に軍艦島を見せていること。
子供がみたいものをみせてやればいいのに!とすら思うくらい見せたがってて、なんだかちょっとおもしろかった。
地元住民も犬を連れて散歩に来たりなんかしてて、やっぱり目立つもんだから話しかけられて談笑したりもする。
優しい空気の流れる時間だった。
その日の日没予定時刻はたしか17時20分くらい。
それまでひっきりなしに色んな人が来たけれど、曇りだからか長居することはなかった。
17時10分頃、先程軍艦島を覗かされていた坊主頭の子供が、一人で戻ってきた。
彼は夕焼けに照らされる雲を眺めていて、なんだか同じ感性を持っている気がしちゃって、彼の背中を眺めながらギターを弾いていた。
いつもどおりの手癖はやめて、彼の冒険を盛り上げるような優しいけどワクワクするコード進行でのアルペジオ。
我ながらいい曲かけてるじゃ〜んなんて思ってた。
子供はひとしきり双眼鏡を覗いた後、ふとこちらを振り返って周りを見渡した。
家族でも探しているのかな?と思ったら男の子がこちらに向かって「ギターうまい」とひとことだけ伝えてくれた。
なんだか妙に嬉しくなっちゃって、ウキウキしながら日没後の岬を背にして駐車場に向かって歩いていった。
博多の路上ミュージシャンに会えてよかった。
彼のおかげで少し勇気が出てこんな幸せな出来事があった。
ともかく、ニコニコ顔で車にギターを積んでいると突然犬を連れたじいさんに声をかけられる。
さっき展望台で話しかけられた地元民が連れている、少し盛った老犬を連れている知らない人だった。
君、車中泊してるんだろ。よかったら泊まっていってよ。なんて言われて面食らった。
こんなテレビみたいなことあるのか?びっくりしちゃって大声でいいんですかあ!?なんて叫んでしまった。
この道下ってちょっといったら家があるから、そこまで来て。とだけ言って犬とともに去っていく爺さん。
RPGのNPCじゃないんだからもうすこしゆっくり案内してくれよ、もしかしてこれもアトラクション?再開発しすぎだろ!なんて思いながら車で岬を後にした。
彼の家は徒歩でも数分峠を降りた場所にあり、夫婦で食事とお酒を振る舞ってくれて、なんとご近所の老夫婦まで呼んじゃって、大宴会だった。
久しぶりに布団に横になると、犬が人懐っこく一緒に隣で寝始めた。
この柴犬、警戒心ゼロにも程がある。
博多で路上ミュージシャンに出会ってなかったら、こんなことにはなってなかった。
本当にありがとう。
翌朝、止めてくれた爺さんから地図持ってるか?と聞かれて、もちろん持っていないと答えると九州全域の高速道路と観光スポットが書いてある地図をくれた。
ポケモンみたいで、ちょっとおもしろかった。
いつの間にか決まっていた旅のルーティンを広島で崩していなかったら、こんな旅にはなってなかった。
その日から俺はルールを崩して、いつ寝てもどう動いてもいいことを思い出して、ろくに寝ないで九州を一気に走り抜けることになった。